~ Φ75の拘り ~
〈開口寸法の拘り〉
照明器具メーカーが販売するダウンライトのボリュームゾーン。それは開口寸法が100ミリの商品アイテム。
照明器具の選定において、開口寸法は空間の印象を大きく左右する重要な要素だ。特にダウンライトは天井面に直接設置されるため、そのサイズが空間全体の見え方に直結する。市場にはΦ100のダウンライトが豊富に揃っており、施工性や光量の面で選ばれやすい。しかし、空間デザインを重視する立場から見ると、Φ75のダウンライトには明確な優位性がある。
まず、Φ75は天井面をよりすっきりと見せることができる。開口が小さいことで照明器具の存在感が薄れ、空間そのものの美しさが際立つ。照明は「光を届ける道具」である一方、「空間の印象を形づくる要素」でもある。器具の主張が強すぎれば、空間の意図が損なわれる。Φ75はそのバランスを保ち、光だけを空間に届ける理想的なサイズだ。
さらに注目すべきは「天井の余白」である。Φ100からΦ75に変更することで、照明器具の表面積は約60%も減少する。
これは、天井面における照明器具の占有率が大幅に下がることを意味し、結果として天井の余白が広がる。余白が増えることで視覚空間にゆとりが生まれ、見た目のノイズが減り、より洗練された印象を与えることができる。特に住宅では長時間同じ場所に滞在する。その為空間の質に直結するこの「余白の力」が大きな価値を持つ。
もちろん、よりミニマルな印象を求めるならΦ50という選択肢もある。開口が小さければ小さいほど、照明器具の存在を消すことができる。しかし、Φ50は施工の難易度が上がり、現場では敬遠されがちだ。器具の取り付け精度や配線の取り回し、光の広がり方など、設計だけでなく施工面でも課題があるが、結果として、理想と現実の間で妥協が必要になる。
その点、Φ75はデザイン性と施工性のバランスが取れた絶妙なサイズだ。空間の美しさを損なわず、現場の負担も最小限に抑えることができる。照明計画において「デザイン≻施工性」という価値観を持つなら、Φ75は最も合理的な選択肢と言えるだろう。
さらに、照明器具の進化により、Φ75でもΦ100と同等の明るさを確保することが可能になっている。
かつては開口が大きい方が光量を確保しやすいという常識があったが、現在では小型でも高効率な光源が多数登場しており、明るさの面での不安はほとんどない。つまり、サイズを小さくしても機能性を犠牲にすることなく、空間美を優先できる時代になったのだ。
照明は単なる設備ではない。空間の質を高め、居心地や印象を左右する「見えない演出家」だ。だからこそ、私はΦ75のダウンライトに拘る。空間に余計なノイズを与えず、光だけを美しく届けるその姿勢こそが、真の照明デザインだと信じている。



